「見る、話す、触れる、立つ」の4つの柱を使って、介護する相手のことを大切に思っていること(愛情や優しさ)を伝えるためにユマニチュードでは「5つのステップ(手順)」を行います。
それは順番に
①出会いの準備②ケアの準備③知覚の連結④感情の固定⑤再会の約束
この5つです。
いわゆる介護は③知覚の連結で行い、介護を行う前に①出会の準備と②ケアの準備を。そして終わった後には④感情の固定を必ず行います。
私たちが誰かと楽しい時間を過ごすときには、実際にこの順番の行動とっています。
例えば、友人のお宅に食事に招かれたときには①呼び鈴を鳴らす、②「楽しみにしていました。お目にかかれてうれしいです」と告げる。③一緒にご飯を食べる(これが介護の時間です。④食後に「おいしかったですね」と話し合う。⑤「また会いましょうね。次は来月に来ますね」と言って別れる。
大切な事は「相手に喜んで受け入れていただく事」です。これは介護だけではなく医療でも同じです。つまり、相手と良い関係を結ぶことで、私たちが本来行いたい介護や医療を受け入れてもらいやすくなります。5つのステップはそのための技術なのです。
ステップ1 出会いの準備: 自分の来訪を告げ、相手のプライベートな領域に入って良いと言う許可を得る
自分の来訪を告げ、相手のプライベートな領域に入って良いと言う許可を得る。必ずノックして返事を待ちます。物を叩く「ノックの音」は人の声よりも聞こえやすいので、声で呼びかけるよりももっと良いと言われています。
認知機能が低下してくると、音を聞いて反応するまでに時間がかかるようになりますので、部屋に入る時やベッドのカーテンを開ける時などには、3回ノックして3秒間は反応を待ってください。もし反応がなければもう一度繰り返しましょう。それでも反応がなければ、ご本人の近くに移動して、テーブルや足元のベッドボードなどをノックします。
ステップ2 ケアの準備: ケアの同意を得るためには「相手と良い関係を結ぶ事」大切にする
ケアの現場では、「さあ、今からお風呂に行きますよ」と、いきなり用件を切り出すような一方的な声かけがされていることがあります。 しかし、ユマニチュードでは、ケアの合意を得る前段階として「 相手と良い関係をするプロセス」をとても大切にしています。
まず、いきなり手を取るのではなく、お声をかけていくことが必要ですが、大きな高いトーンの声でなく、低く静かな声掛けを心がけます。そして「看護師の〇〇です」というように、名前だけでなく役割もきちんと伝えることで、患者さんの不安を軽減することができます。 大切な事は、自分が来たことを告げて、相手の反応を待つことを繰り返し、徐々にこちらの存在に気づいてもらい、次のケアにつなげていくことです。ステップ1で相手がこちらに気づいてくれたら、4つの柱の「見る、話す、触れる」を使って「あなたにお目にかかれてうれしいです。」「会えて嬉しいです」と伝えます。
「〇〇さんの大好きなお風呂を沸かしてきました。一番風呂なので気持ちいいですよ。」などと声かけて同意を促しますが、20秒から3分間程度の時間をかけてもケアについての同意がもらえなければ、今回は諦めて「後でまた来ますね(ステップ5 再会の約束)」といって別れます。
同意のないまま行うケアは「強制のケア」です。「お風呂の時間だから」とこちらの都合で無理矢理のケアをするのではなく、同意が取れない時は諦めるという姿勢が大切です。相手から「嫌がることを強制する人だ」と認識されてしまうと、次に繋げることができなくなるからです。
ステップ3 知覚の連結: ケアの実際
先に述べた「ユマニチュードの4つの柱」を常に意識し、相手の知覚(視覚・聴覚・触覚)への同じメッセージ(優しさ)を伝え続けます。
「見る」「話す」「触れる」のうちの2つ以上のテクニックを同時に包括的に組み合わせます。
強制や自由を奪われるというような「矛盾がない」ことが大切です。
例えば普段でも「声をかけて誘導しながら背中に触れる」、「説明をしながら手を添える」などはよく行われていますが、相手に優しさが伝わることが大切です。「見る」「話す」は比較的行いやすいのですが、「触れる」については無意識のうちに「心地よさ」よりも「効率」を重視する動きをしてしまいがちで注意が必要です。
「知覚」の連結がうまくいくと、ケアを受ける人の緊張感が和らぎ、力が抜けて、時にはあくびが出ることさえあります。反対にうまくいかないときには、緊張感が強くなり、表情は険しく、清拭などのケアを進めることが難しくなります。 つい「こっちを向きますよ!」という声にも力が入り、体位変換する腕にも強い力が入ってしまいます。そうするとケアを受ける人が「嫌だと言う言葉や態度を示さなくなればならなくなり、「強制的なケア」になってしまうのです。
ステップ4 感情の固定: 共に良い時間を過ごしたことを振り返る
ケアが終わったら、気持ちよくケアが受けられたことをご本人の記憶にしっかりと残し、次のケアにつなげていきます。例えば
ケアの内容を→「お風呂に入って、サッパリしましたね。」
相手を褒める→「髪を洗ってとても素敵になられましたね。」
自分も楽しかった→「ありがとうございました。私も楽しかったです。」
というように、前向きな言葉を使用することで「この人は自分に嫌なことをしない」という感情の記憶を残すことを目的としています。
認知症が進行しても「感情に関する記憶」は最後まで残っているので、やや大げさに表現すると効果的です。
ステップ5 再開の約束:次のケアを受け入れてもらうための準備
最後にそばを離れる前に再会の約束をします。「また来ますね」といって握手をすると、とても喜んでいただくことができます。
ユマニチュードの「5つのステップ」によって、スムーズなケアが出るきるようになるだけでなく、患者さんの心地よさを介護者が手や耳で感じることで、介護が楽しいという感覚ややりがいが高まってくることでしょう。
参考文献
ユマニチュード学会ホームページ
優しい認知症ケアユマニチュード:NHK厚生文化事業団
ユマニチュード入門:医学書院
ユマニチュードという革命:誠文堂新光社