「職員紹介」 認知症ケア・ユマニチュード推進部門 部長
認知症ケア・ユマニチュード推進部門
部長 認知症看護認定看護師
藤原 香子
認知症ケアは、人生を捧げるに
値するものだと思っています。
厚労省によると2025年には、高齢者の5人に1人が認知症になると推測しています。
これからの時代、認知症ケアがこれまで以上に必要とされることでしょう。
今回は、南港病院グループに在籍する「認知症看護認定看護師」が、なぜ認知症に関心を抱いたのか、ケアにかける想いなどをインタビューしてみました。
★看護師になろうと思った理由、認知症ケアに関心をもった理由をお聞かせください。
祖母が入院している時に接してくださった看護師さんに憧れて。その方がやさしく、いろんなことをてきぱきとこなす姿を見て、こんな風になりたい。人のために役に立つ仕事に就きたいと思ったのがきっかけでした。
認知症ケアの道に進もうと思ったのは、急性期の病院に勤めていた頃です。毎日、患者様の生命と向き合うような職場でした。忙しい日々を送っている中で、高齢の方が増えてきたと感じたのです。高齢の患者様は病気の辛さで混乱する方が多く、どうすれば穏やかに過ごしていただけるか、そればかりを考えていました。そんな姿を見たのか、上司が「認知症看護認定看護師」の勉強をすることを勧めてくれたのです。
7か月専門の教育機関での勉強に加え、認知症病病棟や訪問看護での実習も行いました。患者様にとって「入院している期間は、人生のほんの一部。地域で生きていくために必要な支援を、統合的なアセスメント(客観的情報)から考える」という大切なことを学びました。
★認知症の方と接する際に、心がけていること。
いちばん大切にしていることは、なんでしょう。
「認知症」とは、認知機能の低下により一人では生活できなくなった状態と定義されています。私が大切にしているのは「認知症になったからといって、何もわからなくなる訳でない」ということ。たとえば、カレーを作る場合。買い物に行って材料を揃える、切って炒めて煮るといった一連の動作を行うことは難しくても、ジャガイモが切れたら、そのことを尊重する。できないことに目を向けるのではなく、できることを重視する。そうすることで、身体の機能を維持することにつながるのです。「できないことは周囲が支え、できることは尊重する」ことが必要だと考えます。
認知症ケアには、正解はありません。患者様の反応が答えです。自分の身体の不調を訴えられないこともあります。大きな叫び声、それもメッセージなのです。患者様の様子を見て、どうすれば困り事が解決できるのかを想定し、ケアを進める。これが認知症ケアの基本です。効果に結びつかなかったら、次のケアへ進化させる。それを繰り返し行うことで認知機能の低下を防ぎ、患者様の能力を引き出す。可能性を導き出す。これこそが、認知症ケアの本質だと思っています。
★認知症ケアに取り組む中で実感する、ユマニチュードのチカラとは。
やさしさを伝えるケアの技法・ユマニチュードの存在は、認定看護師の教育課程の中で知りました。ただ本を読むだけでは理解が難しく、南港病院に入職して実践することで「認知症の方にはこのケアだ」と確信しました。
一例をあげれば、まったく意思疎通のできない方が、目で合図されるようになった。いつも落ち着かない患者様に、困っていることはないですかと聞くと、答えてくれようになった…など。いきなりケアの話をせずに「あなたのことを大切に思っている」と「見る」「話す」「触れる」「立つ」の技術を5つのステップで丁寧に届け続けることで、認知症の患者様も「この人なら自分をまかせられる」と記憶してくれるのです。病気になると、人は孤独を感じるものです。私たちが信じられる存在と認識することで、認知症の方も話を理解できたり、会話ができるようになっていくのだと思います。
事実、身体拘束が見る見る減っていったのには驚きました。これからもグループ全体にユマニチュードの理論とケア技法をさらに浸透させ、やさしさを伝える技術で現場を変えていきたいと思います。
★ユマニチュード推進部門として、取り組んでいることは?
地域のケアマネジャーさんと実際の認知症ケアにおける経験や悩み・不安などをざっくばらんに相談し合える「お話し会」を企画しています。同じ病気であっても、患者様の環境によってケア方法もさまざま。みんなで一緒に考えることで、私にも新たな発見が生まれるはず、と期待しています。
2024 年の9月に「第6 回ユマニチュード学会・福岡大会」が開催されました。福岡市は2018年より、認知症フレンドリーシティを掲げ、ユマニチュードの普及を推進しています。会場では、大会長である市長が「日本は世界でも類をみない超高齢社会である。認知症になっても住み慣れた地域で、安心して自分らしく暮らせる仕組みを作ることで、超高齢社会のモデルとなるチャンス」と宣言され、感動を覚えました。南港病院グループは、病院をはじめ介護・福祉施設で、多角的にユマニチュードに取り組んでいます。
この経験と実績をもとに、私たちは大阪市住之江区にユマニチュードを広げ、認知症の方、そのご家族をはじめ住民の一人ひとりがいくつになっても安心して暮らしていける、やさしいまちづくりのお手伝いをしていきたいと考えます。私は、ユマニチュードには認知症のケアだけでなく、すべての人に、まちに、笑顔あふれる未来をつくるチカラがあると信じています。
あきらめないでください、私たちも(ケアを)あきらめません。
認知症は、誰もがいつか行く道です。将来への不安がある、物忘れが気になってきた、高齢の方と暮らしているという方もいらっしゃるでしょう。そんな方へ、「認知症になっても、何もできなくなるわけではありません。できることはまだまだあります。あきらめないでください」。
住み慣れた家でいつまでも自分らしく暮らすことを目指して─。私たちは、その想いをサポートします。